父の怒りを抱きしめて｜感情と向き合う再生の記録

あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

息子がご飯を食べずに遊んでいた。それだけのことだ。仕事で疲れきっていた私は、次の瞬間、怒鳴ってしまった。「遊んでないで、ちゃんと食べなさい！」と、テーブルを叩く音が響いた。息子の目が、一瞬で恐怖に変わった。

父親として、「叱る」と「怒る」の境界がわからなくなる瞬間がある。自分の中に眠っていた怒りが、子どもという鏡に映し出されたとき、思わず感情が爆発してしまった。あのあと、自己嫌悪で胸が張り裂けそうになった。

「こんなはずじゃなかった」──そう思う自分と、「あんなふうに怒るなんて最低だ」と責めるもう一人の自分がいた。父親も人間だ。完璧じゃない。だけど子どもには、そんな父親を受け入れられるほどの余白はまだない。

そんな時、心理カウンセラーの友人に言われた言葉が心に残っている。「怒りは悪じゃない。感情は抑え込むものじゃなく、理解するものだよ」──この言葉をきっかけに、私は少しずつ感情と向き合い始めた。

ノートに日々の怒りのきっかけを書き出してみた。すると、自分が怒っている本当の理由が「子どもに言うことを聞かせたい」ではなく、「自分の価値を守りたい」だったと気づいた。怒りの裏にあったのは、“父親としてちゃんとした人間でありたい”という思いだった。

今でも怒りが湧くことはある。でも、それを「抱きしめる」ようになった。「ダメな自分」を否定するのではなく、「どうしてそう感じたのか」を丁寧に見つめるようにしている。それが、父として、そして一人の人間として再生する道だった。

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